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新規事業立ち上げの3つの課題を、熱力学の視点で捉え直してみるテスト

ビジネスが立ち上がるとき、当初は混沌とした状態から始まる。その混沌とした状態から秩序が生まれ、ビジネスモデルと呼べるようなものができあがる。そのときには、動的な自己組織化の論理が働いている。

プリゴジンは散逸構造を発見した。散逸構造とは、一定の入力によって維持される構造であり、パターンである。ここで成立するビジネスモデルもこの散逸構造であり、資金の流入などの一定の入力によって維持される。ベンチャーキャピタルのシードマネーは、渦を拡大するための入力の一種である。

散逸構造は、岩石のようにそれ自体で安定した自らの構造を保っているような構造とは異なり、例えば潮という運動エネルギーが流れ込むことによって生じる内海の渦潮のように、一定の入力のあるときにだけその構造が維持され続けるようなものを指す。

味噌汁が冷えていくときや、太陽の表面で起こっているベナール対流の中に生成される自己組織化されたパターンを持ったベナール・セルの模様なども、散逸構造の一例である。またプラズマの中に自然に生まれる構造や、宇宙の大規模構造に見られる超空洞が連鎖したパンケーキ状の空洞のパターンも、散逸構造生成の結果である[1]

散逸構造 - Wikipedia

こうした動的な平衡状態は、たとえば生物がそうである。しばしば企業が生物に例えられるのは、生物と同様の動的平衡状態を保つものであるからである。ただし、まったく同じ状態を維持しているわけではない。外的環境は常に変化して非平衡状態にあるため、厳密な意味での動的平衡とはいえない。が、ある程度の規模を実現した企業は、この動的平衡状態を目指そうとする、ということは言えるだろう。

動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか

動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか

 

 

さて、ビジネスインプロビゼーションが効果を発揮するのは、初期の混沌状態を意図的に作り出せるということと、そこからの秩序形成への道筋となるからである。水をかき混ぜてできる渦がインプロビゼーションの成果であり、その渦の中で有望なものには一定の力をかけ続け、ビジネスとして自己組織化させるよう促していく。顧客開発モデルは、散逸構造を構成するための「一定の入力」を作り出すための方法論として捉えられるだろう。(これを「即興から構想へ」と呼んでいる。)

9つのブロックで構成されるビジネスモデルキャンバスは、こうした散逸構造を捉えるのに非常に便利である一方、それがどうしても静的なものとして描かれる危険がある。そこでシステム思考にもとづくループ図やシステム原型といったアプローチを取り入れ、要素間の関係を動的に捉える必要が出てくる。渦の状態を静止画で捉えるのではなく、動画として描こうとするものである。

ここからでてくる新規事業開発の課題は以下の3点となる。

  1. 混沌から秩序を生み出すためのアクションはどのようなものがあるのか。
  2. 初期の散逸構造を維持するため(動的平衡に近い状態になるため)の「一定の入力」をどのように担保し、ビジネスモデルとして自己組織化を促すか。
  3. 外部の非平衡状態に対して耐性をもった強固なビジネスモデルをどう構築するか。

1については、即興的なアプローチにならざるをえない。多くの起業家が「やってみなければわからない」というのは、混沌から秩序を生み出すためには行動が先立つということを指摘していることになる。

2については、ビジネスモデルキャンバスの枠組みも参照しながら、必要なビジネスモデルという構造を組み立てることになる。繰り返しになるが、顧客開発モデルは、この段階をカバーすると考えられる。

3については、自己強化ループによるシステム原型の適用が効果的だろう。受精卵から細胞分裂を繰り返しさまざまな器官を生み出す生命の誕生のように、活動を繰り返す中でより強度のある組織へと成長していく道筋が描かれる必要がある。