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サイバネティックスからオートポイエーシス、自他非分離の〈場〉への流れ

ノーバート・ウィーナーは、不確実で予測のできない環境変化に対応するためにどうすればよいかを考え、「サイバネティックス」という概念を生み出した。操舵手という意味のこの言葉は、予測可能な「天文学」の世界ではなく、正確な予測のできない「気象学」に対応するための方法を示している。もともと、不規則に旋回を繰り返すゼロ戦を撃ち落とすためのロジックを依頼されたウィーナーは、それが方程式で計算できるものではなく、確率論的にしか処理しようがないことを見て取った。(ゆえに100%確実にとはいかない。) 

ウィーナー サイバネティックス――動物と機械における制御と通信 (岩波文庫)

ウィーナー サイバネティックス――動物と機械における制御と通信 (岩波文庫)

  • 作者: ノーバート・ウィーナー,池原止戈夫,彌永昌吉,室賀三郎,戸田巌
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2011/06/17
  • メディア: 文庫
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 ウィーナーは、世界を観察する主体をはっきりと認識していた。副題には、「動物と機械における制御と通信」とある。動物を機械的に見る、というよりも、機械では対処できない事象に出合ったときに、動物的な情報処理と制御の方法に触れたと考えたほうがいいのではないかと思っている。西垣通は言う。

サイバネティックスにおいて周囲環境(世界)をながめているのは、限られた情報しかもたない生命体である。これは、思考機械において全能の神が「客観的世界」を上から見下ろしているのとはまったくちがう点だ。そこでは「観察者としての生物」という存在がはっきりあらわれている。(西垣通『ネットとリアルのあいだ』)

ネットとリアルのあいだ―生きるための情報学 (ちくまプリマー新書)

ネットとリアルのあいだ―生きるための情報学 (ちくまプリマー新書)

 

 

この予測不可能性の根源は、フィードバックループにある。気象の変化が複雑になるのは、自分の行動が環境に影響を与え、さらに環境から自分の行動へフィードバックがかかることにある。台風は環境に影響を与え、またその影響を与えた環境から再び、自分の行動に変化を与える。これは、ゼロ戦が機銃の動きを受けて旋回のタイミングを変えるのと似ている。ゼロ戦の動きは、機銃の照準という行動によって変化を与えてしまう。ゼロ戦は機銃手という「観察者」によって変化する。のちの「観察者問題」につながるものがある。

脳もまた、こうしたフィードバック構造を持つ。「○○を認識している私を認識している私を認識している私……(以下、循環する)」というリカージョンという入れ子構造が、人間の思考を複雑にしている。気象で起こっている予測不可能性は、脳のこうした予測不可能性とつながっている。

リカージョンかできるから、心で心を考え、そのまた考えている心をさらに心で考え、というような入れ子構造か生まれる。リカージョンができるから、「私は今ここにいる、でも、その私って何だろう」と、もう一段階深い〈私〉へと入り込んでいくことができる。
もちろん、さらに深層の〈私〉も考えられる。そんな複雑な多層構造の〈自己〉を人間は持っているよね。でも、それは複雑に見えるだけのことであって、構造的には単なるリカージョンの繰り返しだ。(池谷裕二『単純な脳、複雑な「私」』P381)

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単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス)

単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス)

 

 

この入れ子構造には、入力と出力が直接つながっている。外からのインプットがなくても、頭のなかでは思考を巡らすことができるし、妄想を募らせることもできる。この脳神経の構造に着目して生まれたのが、第三のシステム論と呼ばれるオートポイエーシスである。オートポイエーシスには入力と出力がなく、オート(自らを)ポイエーシス(生産)する、すなわちシステムがシステム自身の要素を再生産していくのである。

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図はオートポイエティック・システムとしての生態系より。

 

第一世代のシステム論は、エアコンのサーモスタットのように、外部環境の変化に対して受動的に対応するもの(刺激と反応)をシステムと考えた。第二世代は、外部環境の変化に対して自己組織化を行い、動的平衡状態を保つことになる。第三のシステム論であるオートポイエーシスはシステムとしての自律性をさらにおしすすめ、変化する外部環境との入出力という概念を取り払ってしまった。

 

(と、このあたりの議論を『ライフハックのつくりかた』という本でやっていたですよね。振り返ると。売れなかったけど(笑)) 

ライフハックのつくりかた

ライフハックのつくりかた

 

 

入力も出力もないシステムというところを、もっとわかりやすく語弊を恐れずに言えば、たとえばマインドフルネスの状態、フロー状態なんかは、このシステム論で初めて表現できるようになるのだろうと思う。また、西田哲学などで言われる自他非分離の〈場〉などは、やはりオートポイエーシスで表現されるものだろうと思う。