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『秒速5センチメートル』に描かれる微細な時間

秒速5センチメートル。新海誠の魅力は、この速度が感じられるような寄りの場面に流れる時間と、そんな時間がまったく感知できないような宇宙時間の併存にある。

『ほしのこえ』では、光の速度で8年かかる距離にながれる「ほし時間」に、コンビニに立ち寄って潰すような「コンビニ時間」が並列に置かれる。

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一方、『秒速5センチメートル』ではSF要素が排除され、「コンビニ時間」がより詩的に描かれることになった。

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積雪によって駅で止まる電車。そこで流れる一分が意味を大きなもつ。そしてその一分は、宇宙的な時間ではなく、過去と未来という時差と対比させられる。空間的ではなく、過去と今が、時間を超えて重ねて描かれる。『君の名は。』へとつながるモチーフだ。

秒速5センチメートル(02)

秒速5センチメートル(02)

  • 新海誠 & 清家雪子
  • 青年
  • ¥540

 

3つの短編からなる本作品。『桜花抄』でも、相手に届かない(渡せない)手紙というモチーフが描かれる。『コスモナウト』では、相手のやりとりしているメールに思いを寄せる。それが自分に届くものではないと知りながら。最後の『秒速5センチメートル』では、1000回、メールをやり取りしても距離が縮まらないことでの男女の別れが描かれる。

メッセージはその瞬間〈今ここ〉で受け取っているようでいて、それはおとなになって初めて受け取ったことになるようなメッセージもある。宇宙空間であればそれは光の速度で8年後というズレが起こる。だれもが〈今ここ〉を生きているようで、実はずれた時間を生き、ずれた時間の中で会話を交わしている。

秒速5センチメートルという、宇宙の時間とは真逆の、宇宙から見れば微細の時間にフォーカスを絞ることで、また新しい新海ワールドが開けたのだろう。