イノベーションの三つの変遷
イノベーションには三つの段階があります。
最初はプロセス・イノベーションです。T型フォードがベルトコンベアを使った大量生産によって、安価に提供されたのが、その典型例でしょう。製造プロセスにイノベーションを起こし、顧客が購入できる価格帯で自動車を提供し、他社を圧倒したのです。
この次に来るのがプロダクト・イノベーション。たとえばソニーのウォークマンなどは、それまで据置型が当たり前だった音楽プレーヤーを持ち運び型にして、大ヒットとなりました。T型フォードが基本的に他社と変わらない自動車を製造していたのに対し、プロダクト・イノベーションでは製品そのものに大きな革新が加えられています。
そして今、クローズアップされているのが、ビジネスモデル・イノベーションです。iPodの場合、出た当初においては、ホイールによる使いやすさなど、プロダクト・イノベーションの段階にとどまっていました。
しかし、そこにiTunes Storeを加えることによって、ワンクリックで音楽を購入して楽しめる、シームレスな音楽体験を提供できるようになりました。曲が一曲ごとに購入できる便利さは、ユーザーに強く支持されました。
このビジネスモデルの優れている点は、一度購入してしまうと他社に乗り換えがしにくくなる、いわゆるスイッチングコストとして機能したことでした。その後、ソニーがいかに性能のいい音楽プレーヤーを発売しても、ユーザーはiPodを使い続けざるをえなくなったのです。
現在のように、市場が飽和し、すでに消費者が製品を所有してしまっている状況においては、単に新しい製品を作り出すだけでは不十分です。これまでにない体験をもたらすような、新しいビジネスモデルを生み出すことが求められているのです。