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「上から目線」の構造

師からの指導は、もちろん「上から目線」などにはなりえない。それは師が自分より豊かな知見を持っているからということでは、実はない。「私たちの師がその師を仰ぎ見たときの視線の仰角」が同じだからである。

芸道において、「指を見るな、月を見よ」ということがよく言われる。私たちが師から受け継ぐのは、師が実体的に所有する技芸や知見ではない。そうではなく、私たちの師がその師を仰ぎ見たときの視線の仰角である。師がその師を星を見上げるほどの高みに仰ぎ見ている限り、仮に私の師と私の間にどれほどの身長差があっても、仰角のぶれは論じるに足りない。視線の角度は正しく継承され、私はそれを次代に相伝することができる。そして、その仰角を保持する限り、見上げる先にはつねにシリウスが光っているのである。

他者と死者―ラカンによるレヴィナス (文春文庫)

他者と死者―ラカンによるレヴィナス (文春文庫)

 

 

この仰角が低くなり、水平をこえて下に向いたときに「上から目線」が発生する。知る者と知らざる者というポジションを誇示するために発せられるメッセージは、「上から」やってくる。上から目線のメッセージを発するのは、上を見ることを止めた人である。師をもたない人の発言は、卑屈になるか、尊大になるかの両極に振れることが多い。